ハーランド彷彿弾に世界最大級スタジアムが揺れた…希代のファンタジスタが絶賛「過小評価されている選手だ」【現地発コラム】

PSGとの1stレグでゴールを決めたニクラス・フュルクルク【写真:ロイター】
PSGとの1stレグでゴールを決めたニクラス・フュルクルク【写真:ロイター】

CL準決勝第1戦でPSGに1-0勝利のドルトムント、存在感を放ったFWフュルクルク

 その瞬間、間違いなくスタジアムは揺れていた。ボルシア・ドルトムントがパリ・サンジェルマン(PSG)をホームに迎えたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝のファーストレグ。コレクティブな守備でPSGのフランス代表FWキリアン・ムバッペやウスマヌ・デンベレを相手に無失点で切り抜けたドルトムントは、前半36分に貴重な先制ゴールを挙げることに成功した。

 ドイツ代表FWニクラス・フュルクルクが、センターバックのニコ・シュロッターベックのロビングパスから抜け出すと、パーフェクトなトラップから流れるようなシュートでゴールネットを揺らしたのだ。ジグナル・イドゥナ・パルクも揺れた。感情表現的なものではなく、間違いなくジグナル・イドゥナ・パルクは揺れたのだ。世界最大規模の8万1365人を収容し、ゴール裏だけで2万8377席。彼らが一斉に飛び跳ねるのだから、スタジアムそのものが本当に揺れる。そこにファンみんなの心の底からの声援が重なり、大きな力を生み出していく。

 殊勲のフュルクルクは試合後のミックスゾーンで、「誇りに思う勝利だよ。ファンのことを本当に誇りに思う。難しい時でも僕らの身体を動かしてくれる。スタジアムすべてが黄色で、みんなが大きな声でサポートしてくれたから、特別なゲームで特別な夜になった」と感謝の思いを口にしていた。実感がこもっている。

 今季ブレーメンから移籍してきたフュルクルクは、これまでとはまったく違う世間からの注目度とプレースタイルの変化に順応するまで少し時間を要し、しばらくゴールから遠ざかっていた時期もあった。だが、この試合では前線で何度も空中戦に競り勝ち、ボールを収めて仲間の攻め上がりを引き出し、そしてゴール前では危険な存在であり続けた。

 それこそゴールシーンは、かつてドルトムントで活躍していたノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドを彷彿とさせるものがあった。ダイナミックな動き出し、スムーズな動作からの強烈なシュートは4年前にハーランドが決めたゴールを思い出す。そういえばあの時も対戦相手はPSGでドルトムントホームのゲームだった。

デル・ピエロもフュルクルクを絶賛【写真:ロイター】
デル・ピエロもフュルクルクを絶賛【写真:ロイター】

イタリア代表の英雄デル・ピエロが賛辞「危険な選手。本物のFWだ」

 そんなフュルクルクに称賛の声を送るのは元イタリア代表の英雄がいる。アレッサンドロ・デル・ピエロだ。

「彼は、どのチームも持てるわけではないオプションだ。対戦相手やピッチ状況、試合展開によってはうしろから上手くボールを運び出せないことがある。そうした時には前線に蹴り出すしかない。そんな時に彼のような選手がボールを収めることで、チームメイトが(ラインを)押し上げる可能性を作り上げている。

 ペナルティーエリア内では危険な選手でもある。本物のFWだ。彼のゴールに関しては言うことはないけど、あれ以外にも前半にシュートを打てるチャンスで極めて冷静にマルセル・ザビッツァーにパスを出したシーンがあった。ワンダフルなパスだ。彼は別レベルにいる選手だと思う。ものすごく速いわけでも、強靭なわけでもない。でも非常に効果的なプレーができる。過小評価されている選手だと思うよ」

 ファンタジスタとして世界中のファンを魅了したデル・ピエロの言葉だけに説得力がある。とはいえ準決勝はまだファーストレグが終わっただけ。来週火曜日(現地時間5月7日)にはパリでのセカンドレグが待っている。

「まだ前半が終わったところ。次戦でも90分間ハードな仕事をしなければならない。ポジティブな気持ちは今日の試合から持っていく。トップの準備が必要。コーチングスタッフが分析をして、最適な戦略を立ててくれるはず。僕らはハートを込めてプレーをする」

 フュルクルクは報道陣にそう力強く語っていた。前回CL準決勝に進出した2013年には決勝進出を果たし、バイエルン・ミュンヘンとのブンデスリーガ対決を実現している。果たして今回はどうなるのか。フュルクルクの活躍に期待が集まる。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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