その他 女子サッカー

新潟L川澄奈穂美を封じた浦和RL。清家貴子と遠藤優だけでない強力ユニットとは

栗島朱里(左)川澄奈穂美(右)写真提供:WEリーグ

日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)2023/24第20節のうち1試合が、3月27日に浦和駒場スタジアムにて行われた。同リーグ2位の三菱重工浦和レッズレディースが、3位アルビレックス新潟レディースと対戦。最終スコア2-0で勝利している。

注目のWEリーグ上位対決を制し、暫定首位に立った浦和。3月24日に行われたリーグ戦(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦)から中2日、これに加え3月だけで7試合消化予定と過密日程のなか、今節も緻密な戦術でゲームを掌握。リーグ戦5連勝を飾り、優勝戦線に踏みとどまっている。

2011FIFA女子ワールドカップ(ドイツ大会)優勝メンバーのひとり、MF川澄奈穂美擁する新潟の攻守のリズムをいかに乱したのか。ここでは主に新潟戦の前半を振り返るとともに、栗島朱里、伊藤美紀、水谷有希の浦和MF陣や同クラブを率いる楠瀬直木監督、及び川澄への取材で得た試合後コメントを紹介。そのうえで浦和の勝因を分析・論評する。


浦和レッズレディースvsアルビレックス新潟レディース、先発メンバー

守備の出足が鈍かった浦和

相手のビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)を片方のサイドへ誘導し、追い込んだ先のボール保持者やその周辺の相手選手を捕まえる。これが浦和の守備の段取りだが、この試合においては選手たちの出足が鈍く、特にキックオフ直後はボールを奪いきれない場面が散見された。

この最たる例は、基本布陣[4-4-2]の新潟がMF白沢百合恵(右サイドバック)を起点にパスを回そうとした前半4分の場面だ。ここに基本布陣[4-2-3-1]の浦和の左サイドハーフ伊藤が寄せ、新潟のパス回しをタッチライン際へ追いやったものの、白沢のパスを受けに自陣へ降りた川澄(右サイドハーフ)に浦和のボランチ栗島が寄せきれず。その後新潟に逆サイドへボールを運ばれ、速攻を浴びている。「両チーム疲れているなかで(浦和の)選手たちは頑張ってくれたのですが、前半は慎重になりすぎたかな」と試合後会見で楠瀬監督が語った通り、このシーンからも過密日程の影響が感じられた。


三菱重工浦和レッズレディース MF栗島朱里 写真提供:WEリーグ

栗島のパスから生まれた先制点

膠着しかけたこの試合を動かしたのは、直近のリーグ戦で浦和のビルドアップを司り、ゴールの起点となるパスも繰り出している栗島だった。

前半14分、栗島が味方DF石川璃音(センターバック)とMF遠藤優(右サイドバック)の間へ降り、ビルドアップに関わる。この立ち位置をとった栗島への新潟の守備対応は曖昧で、この場面では同クラブの最終ラインと中盤が間延びしていた。

ボールがタッチラインを割り一度プレーが途切れるも、スローイン後も栗島が先述の立ち位置でボールを捌き続ける。最終的には同選手のロングパスがペナルティエリア右隅に立っていた伊藤に繋がり、FW清家貴子(右サイドハーフ)がシュートを放っている。浦和にとって、この試合初めてと言えるビルドアップ成功シーンだった。

栗島は3月3日の第8節INAC神戸レオネッサ戦でも同じ場所からビルドアップに関わり、同点ゴールの起点に。3月20日に行われた第11節マイナビ仙台レディース戦でも、栗島がここでボールを受けたことで相手サイドハーフが釣り出され、右サイドバック遠藤が相手サイドバックと1対1の勝負を挑めるように。遠藤のパスを受けた清家が浦和に先制点をもたらしたが、もとを辿ればこれも栗島が生み出したゴールシーンだった。今回の新潟戦前半14分にもこの動きが見られ、これが得点に結びついたわけではないが、浦和の攻撃バリエーションが増えた瞬間だった。

浦和が攻撃のリズムを掴み始めたなかで迎えた前半33分、タッチライン際でボールを受けた左サイドバック水谷やその周辺に立っていた栗島とMF柴田華絵を、新潟の選手たちが捕捉しきれず。この隙を突いた柴田が水谷からのパスを受け、ワンタッチで後方へボールをはたくと、これを受けた栗島が相手最終ラインの背後へロングパスを送る。これに反応した清家が新潟GK平尾知佳との1対1を制し、先制ゴールを挙げた。


三菱重工浦和レッズレディース MF栗島朱里 写真提供:WEリーグ

栗島が活かした前回の反省点

昨年12月に行われたWEリーグ2023/24第5節で、浦和は新潟に0-2で敗戦。この試合ベンチスタートだった栗島の出場機会は無く、浦和のビルドアップは停滞していた。

栗島は今回の新潟戦終了後に筆者の取材に応じ、自身のポジショニングの意図を明かしてくれている。やはり、前回対戦時の反省を踏まえてのプレーだった。

ー先制ゴールの場面で、うまくパスワークに絡めましたね。あのシーンで栗島選手が味方2センターバック間へ入ってビルドアップに絡むと思いきや、すぐ左サイドのフォローに回ってラストパスを繰り出せていました。

「あのシーンは(味方の)距離感が良かったですね。自分がダイレクトパスを裏に置けた(相手最終ラインの背後へパスを出せた)のがポイントでした。走り出してくれたのが(俊足の清家)貴子だったので、相手最終ライン裏にボールを置ければ走り勝てると分かっていました。良いところにボールが落ちましたし、得点に結びついて良かったです」

ー試合が膠着気味だったなか、前半14分あたりに栗島選手が味方センターバックとサイドバックの間へ降りましたね。あのあたりから新潟の[4-4-2]の守備ブロックが崩れ始めた気がします。他の試合でもそのポジションをとっていると思いますが、この試合では何を感じてそこへ移動しましたか。

「自分があの立ち位置をとるのは、相手チームも分かっていたと思います。ただ、自分が相手チームにそれをやられたら(センターバックとサイドバック間にボランチが入ってビルドアップに関わられたら)嫌ですし、そこに立てるタイミングは窺っていました」

「前回の新潟戦を見ていて、相手のプレス(前線からの守備)をまともに浴びている感じがしたんです。その試合に自分は出ていなかった(出場していなかった)ので、どうすればこのプレスを外せるかを考えながら試合を見ていました。前回の反省を活かして、相手のプレスをずれさせるような位置どりをしました」

Previous
ページ 1 / 2

名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

筆者記事一覧