中村憲剛氏、川崎がタイトル引き寄せた要因は勝利のうまみ熟知と海外流出の危機感

スポーツ報知
表彰式で歓喜の川崎イレブン(カメラ・今成 良輔)

◆サッカー天皇杯▽決勝 川崎0(PK8―7)0柏(9日、国立競技場)

 川崎が3大会ぶり2度目の頂点に立った。柏との決勝は延長戦を0―0で終え、PK戦を8―7で制した。2020年に引退するまでの18年、川崎一筋でプレーし、現在はクラブのリレーションズ・オーガナイザーを務める元日本代表の中村憲剛氏(43)が古巣の天皇杯優勝に際し、スポーツ報知に特別寄稿。最後に柏を上回ったのは「タイトルのうまみを知っていたから」と解説した。

 どちらが勝ってもおかしくなかった。川崎はゴミスのヘディングシュートがあったが、決定機はそう多くなく、やりたいことができていたのは柏の方だった。タイトな守備でボールを奪い、カウンターでチャンスを作った。1本決めていたら、と思わせる素晴らしい内容だった。ただ、最後は川崎が土俵際でうっちゃった。柏より直近にタイトルを取っていたことが、結果に影響したように感じる。

 2017年に初めてタイトル(J1優勝)を取ってから、変化があった。「タイトルを取らなければいけない」。この言葉を使えるようになった。タイトルを取ったことがないチームが口にできないフレーズで、ここにタイトルを取るうまみが詰まっている。

 まずは日常の基準が高まる。これくらい練習から激しくやらないとタイトルが取れない、という意識。チームの強度が上がり、毎日の積み重ねが勝利に、タイトルに結びつく。基準は選手やコーチングスタッフだけではなく、事務方のスタッフ、サポーターにも波及し、目線を上げて練習に取り組める。

 そして、正当化できる点も大きかった。負けが続くとダメかと迷いが生じ、チームがブレることは往々にしてある。監督、選手は自分たちが正しい道を歩んでいるかを確かめながら、シーズンを過ごすもの。結果が伴わなければ弱気になり、自信を失う。今日のように苦しい試合ではより重要で、勝つことのうまみ、意味の大きさを知っていると我慢が利く。我慢できたことが勝因の一つであろう。

 これまでの優勝とはメンバーも違うので意味合いが違う。昨季は無冠で終わった。谷口を始め、ここ数年海外移籍などで選手の出入りもあった。ここで取らなきゃ次につながらない、という危機感がタイトルを引き寄せたように感じる。タイトルの尊さを知っているからこそ、発揮された粘り腰。フロンターレの歴史をつなげる優勝だった。

(元日本代表、川崎MF・中村 憲剛)

 ◆中村 憲剛(なかむら・けんご)1980年10月31日、東京・小平市生まれ。43歳。久留米高(現・東久留米総合高)から中大に進学。2003年に川崎に加入し、20年の現役引退まで川崎一筋。愛称は「川崎のバンディエラ(イタリア語でシンボル)」。10年南アW杯日本代表。引退後はフロンターレ・リレーションズ・オーガナイザーとしてクラブに残り、日本協会のコーチとしても活動。J1通算471試合74得点。国際Aマッチ通算68試合6得点。

サッカー

×