【二宮寿朗の週刊文蹴】「次の鹿島」をつくるための身売り

スポーツ報知
記者発表をする(左から)津加宏・日本製鉄株式会社執行役員、庄野洋・株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長、小泉文明・株式会社メルカリ取締役社長兼COO  

 鹿島アントラーズの経営権が日本製鉄からメルカリに移った。61.6%の株式が17年からスポンサーを務めるフリマアプリ大手に16億円で譲渡された。鹿島の「危機感」がそうさせたと感じた。これは鹿島がクラブ創設以来、ずっと抱えてきた切り離せないキーワードだと言っていい。

 彼らはJリーグ加盟時に「99.9%無理」と言われたところからスタートしている。前身の住金サッカー部はJSL2部。立ち上げ当初は1万5000人収容のスタジアムを埋めるのに苦労した。しかし彼らが選択したのは守りではなく攻め。ジーコ以降、レオナルド、ジョルジーニョらブラジル代表を次々に獲得し、日韓W杯を機に4万人収容規模のスタジアムに拡張した。約30億円の債務超過に陥った時期もあったが、積極的な投資とアイデアでブランドを高め、危機を乗り越えてきた。スタジアムの指定管理者となり、スポーツジムやクリニックを開設してノンフットボールビジネスに力を入れているのも危機感ゆえだ。

 メルカリは立場的に親会社となるが、感覚的には並列の「パートナー」に近い形になるのではないだろうか。同社は受け身のスポンサーではなかった。自ら企画を提案して実現させてきた。選手目線で移動バス、クラブハウス、ロッカーを体験できる360度VR動画の提供は反響を呼んだ。以前、岡田武史氏(FC今治オーナー)との対談で、メルカリの小泉文明社長はこう力説していた。

 「試合のない日にクラブとファンをつなげるのはネットだと思うんです。友達に誘われてスタジアムに初めて行った女の子が『面白かった』と体験の発信がシェアされバイラル(拡散)していく。ネットだからできること」

 鹿島は元々、親会社の影響力を感じさせないクラブだ。「次の鹿島」をつくっていくための攻めの身売りだと受け取っている。(スポーツライター)

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