横浜F・マリノスや清水エスパルスなどで活躍した元Jリーガーの安永聡太郎氏(44)が、4月から関東2部・専修大のコーチとして育成年代の指導にあたっている。指導者としては16年から1年半、当時J3の相模原で監督を務めていたが、育成年代の指導は初めて。「絶賛、勉強中です」と、新米コーチとして、将来性豊かな大学生と向き合っている。

関東2部のリーグ戦は、すでに開幕し、専大は2連敗からのスタートとなった。第2節の東京学芸大戦は、一瞬の隙を突かれ2失点し守備の課題は残したが、攻撃では各選手が「前」の選択に重きを置き、縦に速い攻撃を繰り出していた。やろうとするサッカーの意図は、見ている記者にもはっきり伝わってきた。

プロと育成年代。異なる分野の指導で、現在は試行錯誤を続ける日々だという。「プロの世界は勝ちにこだわる。1つ1つのプレーも、自分の判断で選手に意識付けをしてきた。でも、育成年代で、それをやり過ぎることが正しいのかどうか。そのバランスがすごく難しい」。

プロでは、自身がやりたいサッカーを各選手に落とし込み、判断についても、監督としての考えを事細かに指示してきた。だが、育成年代で1から10までやるべきことを指示してしまうと、勝利には近道かもしれないが、各選手のピッチでの思考力、判断力が育たない恐れも出てくる。

「育成年代でも、プロに行く最後のチャンスが大学。そこで、僕自身がやりたいサッカーの色で育ててしまうと、僕自身の色を認めてくれるチームでないと、という話になる。でも、負けると本当に悔しいし。だからと言って、すべて指示をすると、(選手が)指示待ちになってしまう。それも違うなあと言うのが本心」。

安永氏は国内外の複数のクラブでプレーし、プロの厳しい世界を生きてきた。プロで生き抜くには、ピッチでの瞬時の判断力、臨機応変の対応力が大事になることが身をもって分かっている。だからこそ、各選手に、考える“選択肢”を持たせた上でどう指導すべきか、そのバランスに苦慮するのはうなずける。

安永氏の長男は、横浜FCのMF安永玲央(20)だ。記者が横浜FCを担当していたころ、玲央に父の存在について聞いたことがある。玲央は「小さいころは、父に試合を見に来られるのが嫌で、ダメだしされるのをうっとうしく思っていた」と振り返る一方で「プロとして生きていく中で、評価されているのは武器がある選手。自分の武器を磨きなさいと言われ続けてきた」と感謝の言葉を口にしていた。安永氏が向き合うのは、まさに長男と同年代の選手たち。安永氏は「各選手の強みをどう、生かしてあげられるかも大事になる」と話す。

専大はかつて横浜MF仲川、清水MF中山、名古屋MF長沢ら有望なプロ選手を輩出してきた。安永氏が目標に掲げるのは「自由に強い選手」の輩出だ。チームの大枠の約束事を守った上で、ピッチの状況を敏感に察知し、状況に応じた柔軟なプレーができる選手を指す。

現在は練習も、事細かな厳しい指示で選手を縛ることはない。チームの原理原則を決めた上でプレーの自由を与え、約束事ができていない選手は、試合中でも交代させる。現に東京学芸大との試合では、サイドバックの選手が前半45分でベンチに退いた。試合後、交代させられた選手が、安永氏の元へ「なぜ交代させられたのか」と理由を聞きに来ていた。安永氏は「聞きに来るようになったのも大きな一歩」と、選手との対話を歓迎する。失敗を経て、指導者と試合を振り返ることで、各選手のプレーの引き出しは着実に増えていく。

選手の武器をどう引き出し、どう考える力を養いながら勝利に結びつけていくのか。安永氏の育成指導の挑戦はまだ始まったばかり。試行錯誤の先に、必ず先輩に続くプロが専大から羽ばたく道が開かれるはずだ。【岩田千代巳】