新ベルト問題で揺れる新日を明るく照らす棚橋弘至の笑顔…帰ってきた「エース」が今、歩み始めた復活ロード

スポーツ報知
4日のタッグマッチでの快勝後、ジェイ・ホワイト(下)のNEVER王座挑戦要求を受諾した棚橋弘至(カメラ・佐々木 清勝)

 桜が舞い散る中、開催された4月4日の新日本プロレス・両国国技館大会。第4試合のタッグマッチで、あの男がリングの中心に帰ってきた。

 コロナ禍のため、声を出しての応援が禁じられた4484人の観客の手拍子によるエールを一身に集めたのが、NEVER無差別級王者・棚橋弘至(44)だった。

 1月に現在、「昇り龍」の勢いの鷹木信悟(38)を破り、新日第三のベルトと言われるNEVERベルトを初戴冠した「100年に1人の逸材」は、この日もド派手に入場。ファンの視線を一身に集めると、執拗(しつよう)に王座挑戦を要求し、試合開始前から腰のベルトに触ろうとするジェイ・ホワイト(28)をシッシッと手で追い払った。

 ゴングが鳴ると、ジェイの要求に応じてリング上で対峙(たいじ)。大ベテラン・小島聡(50)との抜群の連携でジェイのパートナー・バッドラック・ファレ(39)を必殺のハイフライフローで一蹴。勝利を収めると、試合終了後もさらにジェイに必殺のテキサスクローバーホールドをきめ、ギブアップさせた。

 マイクを持つと、倒れ伏したジェイに向かって英語で「ジェイ、おまえの挑戦を受けてやるよ。だって、おまえは俺のJTO(ジェイ・タップ・アウト)でタップアウトしただろ」とニヤリ。完全に見下した態度で対戦を受諾して見せた。

 バックステージでも「よし! 調子に乗っちゃうぜ。プロレス界一番のお調子者は俺だから。100年に1人のお調子者だから」と“舌好調”。通路の反対側でジェイが「俺はタップしてないぞ。タナ、俺はタップしてない! そうだろ?」と絶叫すると、「You Tap Out!」と叫び返して見せた。

 「俺の準備は整った。向こうの準備は整っていたけどね。年齢、勢い、ジェイは相手にとって不足はないよ」と16歳年下の新日最強外国人レスラーとの対戦に目を向けると「ちょっとしたことを少し変えるだけでプロレスって、まだ可能性が広がるから。今回、実験的にいろいろやってみるよ。今の時代だからこそ、みんなにプロレスを届ける。そして、楽しんでもらうことに努力を怠っちゃいけないと思うから」と続けた。

 視線の先には長引く新型コロナとの闘いの中、消毒、検温に神経をすり減らしながら、収容人員の半分以下の興業を続けざるを得ない新日への思いがある。

 経営不振に陥った2000年代の新日を中邑真輔(41)=現WWE=とともに支え続けてきた棚橋も気づけば、デビュー22年目。倒産寸前だった団体をあらゆる遠征地に先乗りし、地元テレビ、ラジオ局を回るなどの地道なプロモーション活動で支え続けてきた男も44歳になった。

 長年の激闘で、その肉体がボロボロなことも、私は知っている。2017年に左肩剥離骨折と上腕二頭筋断裂、18年にも右上腕二頭筋遠位断裂、右ヒザ変形性関節症で戦線離脱と引退に追い込まれてもおかしくない大ケガに見舞われてきた。

 それでも、18年夏のG1クライマックスで優勝し、4年ぶり4度目のプロレス大賞MVPを受賞。19年1月4日、3万8162人の大観衆を集めた東京ドームでケニー・オメガ(37)=現AEW=を下してのIWGPヘビー戴冠と奇跡的とも言えるV字回復を遂げた瞬間は記者の立場を忘れ、一ファンとして心が震えたことも覚えている。

 そんな自他ともに認める新日の「エース」だからこそ、棚橋はコロナ禍の団体の現状を憂えてきた。

 4日のリングに上がる前には、こうも言った。「今、ベルトっていうものに注目が集まって、もう一度、ベルトとは何かを考えるいい時期に来ていると思う。奇しくもIWGPよりも歴史が長いベルトになってしまったNEVERだけに一つ一つ意味を持って、意味ある戦いをしたい」―。

 その言葉の先には「バレットクラブ」のEVIL(34)とマネジャー役のディック東郷(51)コンビが繰り広げてきた乱入、金的攻撃による理不尽なタイトル移動劇やファンを置き去りにした形で進んだIWGPヘビーとIWGPインターコンチネンタル(IC)両王座の統一によるIWGP世界ヘビー級王座誕生へのファンの冷たい視線への憂慮がある。だからこそ、棚橋はNEVERというベルトを武器に新日本来のストロングスタイルの戦いを復活させようとしている。

 両国大会翌日の5日、新日はビッグマッチの日程を発表。5月3日、福岡国際センターで行われる「レスリングどんたく 2021」大会のメインイベントに、棚橋VSジェイのNEVER無差別級選手権を据えた。

 2日間に渡って行われる「レスリングどんたく」の後には5月15日、横浜スタジアムでの「WRESTLE GRAND SLAM in YOKOHAMA STADIUM」、5月29日には東京ドームでの「WRESTLE GRAND SLAM in TOKYO DOME」と新日が勝負をかけた横浜と東京の二大スタジアムでの連続開催が待っている。

 コロナ禍克服を目指して続く大規模大会。その時、新日伝統のセルリアンブルーのリングの中心に立っているのは、「今の時代だからこそ、みんなにプロレスを届ける」と笑顔で言い切る「エース」しかいない。私はそう確信している。(記者コラム・中村 健吾)

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