病弱な将軍に強引な大老 横暴2トップの人間性を描く優しさ NHK大河「青天を衝け」の根底にあるもの

スポーツ報知
NHK大河ドラマ「青天を衝け」より岸谷五朗演じる井伊直弼(左)と徳川慶福(磯村勇斗

 俳優の吉沢亮(27)が実業家の渋沢栄一を演じるNHK大河ドラマ「青天を衝け」(日曜・後8時)の第9回放送(11日)は「栄一と桜田門外の変」。タイトルだけで大老・井伊直弼(岸谷五朗)の身に何かが起こるのがうかがえる。

 前週の第8回「栄一の祝言」では井伊の人柄が丁寧に描かれた。譜代の名門・井伊家の14男に生まれたため、家督争いには関心がなく、茶や和歌などをたしなみ「茶歌ポン」と呼ばれていたこと。根は小心者で、江戸城では周囲の目を気にしていたこと。徳川慶喜(草ナギ剛)と面会したシーンでは、慶喜が退室した後、オーラに圧倒され畳の上に倒れた。ナビゲーター役の徳川家康(北大路欣也)も井伊家の歴史からひもといて紹介したほどだ。

 井伊直弼を最高責任者に登用した第13代将軍・徳川家定(渡辺大知)の心情についても、きめ細かい。スルーされがちな家定だが、体が弱く、父の徳川家慶(吉幾三)、老中の阿部正弘(大谷亮平)からまともに相手にされず感じていた寂しさ。将軍なのに、自分の知らないところで物事が決まるむなしさを丁寧に描いていた。その家定が目を付けたのが、自身と同じく誰からも相手にされていない直弼だった。

 それだけに直弼も、自分に優しくしてくれた家定のために一生懸命働いた。恩人に報いようとする気持ちが描かれた。だが、将軍の言うままに反対勢力を処分し続けたのが、後に「安政の大獄」と呼ばれ、桜田門外の変へと繋がっていく。

 歴史の教科書的には、優秀な人材を多数処罰した無能な大老というのが直弼のイメージ。吉田松陰ファンの記者も、日本史を勉強しながらそう思っていた。だが少し見方が変わった。岸谷の熱演も相まって、ネット上では「ああいう切り口は初めて見たけど面白い」「人間味ある人物として描いていて優しさを感じました」などと好意的な意見が相次いでいる。

 今作「青天を衝け」の特徴として、弱者に優しい一面がある。第4回で栄一が作った藍農家の「番付表」でも、こき下ろされたベテラン農家は良質の藍を作ろうとして発奮した。弱者や嫌われ者もそのままにせず、どこかで救いを作る。

 第8回の世帯視聴率は15・3%。前週から1・1ポイント回復し、再び15%台に乗せ、テレビ朝日系「ポツンと一軒家」と同率で時間帯トップだった。視聴率も、最近では性別と年齢層に分かれた個人視聴率が使われている。特に民放では、スポンサーへのアピールがしやすいため個人視聴率を重視する。だが大河はCMのないNHK。同局関係者は「うちには世帯視聴率もかなり重要」と強調する。お茶の間のテレビは子供からお年寄りまでが見ている。放送から1か月半がたつが、まだチャンネルが変えられていない理由に、作品の持つ“優しさ”があるのではないか。(NHK担当 浦本将樹)

※視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区

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