【札幌】心を動かす名将の言葉 63歳のペトロヴィッチ監督「君たちはまだ若い」

スポーツ報知
2日の練習後、選手に熱く語りかける札幌・ペトロヴィッチ監督(中央奥)

 福岡戦(3日、2〇1、ベススタ)前日のことだった。チームの雰囲気を見守っていたJ1北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(63)は、練習後の円陣でいつも以上に熱く、選手に語り始めた。一記者が円陣に加われる訳ではない。少し離れた所で耳を傾けるだけだ。それでも、ミシャの放つ“熱量”が宮の沢のフェンス越しにも確かに伝わった。

 「私は今や、足も腰も言うことを聞かない。朝起きて、コーヒーを飲んで、仕事に行く。楽しみはそれくらいだよ。でも、君たちはまだ若い。これからの人生で、きっと楽しいことがたくさんあるはずだ。コロナ禍で思うようにいかないことばかり。制限ある生活でストレスもたまるだろう。こんな今だからこそ、せめてピッチ上では精いっぱい『楽しい』を表現して伝えていこうぜ?」

 日本、世界中でコロナ禍の窮屈な生活は続いている。札幌も一人一部屋、原則外出禁止のキャンプ生活が1月沖縄、2月熊本と続き、降雪の影響などで、最終的に3月中旬まで延びた。指揮官は今オフに母国で転倒し左大腿骨骨折。それでも“子供たち”と呼ぶ札幌イレブンのため、強い意志とリハビリ、2週間の隔離期間を経て、開幕前合流にこぎつけた。

 開幕から1か月あまり。昨季、外国人監督初のJ1通算200勝も果たした名将は、ストレスを抱えながら戦う選手の表情を敏感に読み取り、効果的なタイミングで熱い言葉を投げかけた。チームとしてまとまった札幌は、結果的にリーグ5戦ぶりの勝利もつかんだ。だが、ミシャの言葉は選手だけでなく、きっと誰の胸にも響く。

 自分だってそうだ。「みなし開催」(公式戦中止で代替日が確保できなければ不戦敗扱い)が導入された今季、チームに迷惑をかけないためにも担当記者として不要不急の外出を控える生活は続く。リモート取材が主流になるなど、取材方法も以前とは大きく変わった。選手とは比べられないが、小さなストレスは様々な場面で積み重なる。

 それでも、できること、やりたいことはたくさんある。取材者の現場、会社員の職場など、「ピッチ」は人それぞれ。サッカー選手の30歳はそれほど若くないかもしれないが、記者の30歳はまだまだ若いと言われる。今回のように、読者には触れづらい熱い瞬間やメッセージを届けることも、現場記者としての一つの役割、醍醐(だいご)味だろう。名将の言葉を胸に刻み、より多くの「楽しい」を表現し、伝えていきたい。(北海道支局・川上 大志)

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