「変わったら変わったで後に素敵な景色が待っている」…突然のMC交代劇で気づかされたふかわりょうの魅力

スポーツ報知
23日の改編会見で「5時に夢中!」から「バラいろダンディ」MCへの“異動”に対する思いを明かしたふかわりょう

 新型コロナ禍の中、芸能関係の取材もすっかりオンラインでの会見が主流になっている。そんな中、やはり対面で顔を突き合わせての質問と答えのやり取りの大切さを実感した貴重な機会があった。

 23日、東京・麹町のTOKYO MXで行われた4月改編会見。早くも満開となった千鳥ヶ淵の桜を見下ろすMXビルの8階で行われた会見には、2012年4月から9年間務めた同局の「5時に夢中!」(5時夢、月~金曜・午後5時)のMCを同日の放送で卒業、4月から「バラいろダンディ」(月~金曜・午後9時)のMCに“異動”するお笑いタレントのふかわりょう(46)、逆に「バラいろダンディ」から「5時夢」のMCに“異動”するフリーアナウンサー・垣花正(49)、「堀潤モーニングFLAG」キャスターの堀潤(43)、「news TOKYO FLAG」のキャスター・平井理央(38)の4人が登場した。

 場を積極的に盛り上げたのが、ふかわだった。垣花が19年にニッポン放送からフリーになった際、最初に出演したテレビ番組が自身MCの「5時夢」だったことを振り返り、「後悔していますよ。最初に垣花さんをおいしくいじってしまって。なんで、こいつが出てくるんだって」とニヤリ。

 MC交代への思いをギャグにするかと思うと、隣に座った平井を「小池(百合子知事)さんの会見の後、『素晴らしいフリップ芸でしたね』って言ってましたよね」といじり、「やめて下さい! 緊張しているので、いじらないで下さい」と絶叫させた。

 さらに堀には「ニュースを伝えながら、常にパソコンをいじって、できる男を演出してますよね」とつっこんで苦笑させた。

 自身の「バラダン」異動についても「まだ、実感がわかないですけど、一抹の不安は今日、(垣花の所属する)ホリプロのマネジャーさんが全員来ているんですね。それだけ『5時に夢中!』に重きをおかれているんだな。こんなに集まるのは、『アッコにおまかせ』の打ち上げくらいかな」と笑わせ、MXというテレビ局についても「なんだかんだ、みんなが愛している場所で。同じ釜の飯を食べて同じ汚い便所を使っているし、スタッフの声がけがいいのは元気には予算がかからないってことだし。ただ、長年、やってきて、(MX)らしさに甘え過ぎている点があるかな」と自身を振り返る場面もあった。

 「バラダン」への“異動”について「日勤が夜勤に変わるだけなので」と詠んだ自作の川柳を披露すると、「周りは変わるけど、自分は変わらないという意味です」―。そう、ポツリとつぶやいたふかわ。すっかり「5時夢」の顔だったタレントの夜9時台へのスライドにはファンの賛否両論の声が殺到。同番組の顔的存在の月曜コメンテーター・マツコ・デラックス(48)が15日の放送で今回の入れ替えについて「てっとり早く雰囲気を変える浅はかな方法よね」とチクリと皮肉った瞬間を生視聴していたから、思わず手を挙げて、ふかわと垣花に聞いていた。

 「マツコさんの言葉にもあったように今回のMC入れ替えには疑問の声もある。お二人は今の番組をそのまま続けたかったか、それとも新しい番組への希望の方が強いのか?」―。

 そこまでの流れから笑いをまぶしての答えが返ってくるかなと身構えたが、約3メートル前方に座った、ふかわは私の目を真正面からじっと見つめると、こう言った。

 「続けたら続けたで、変わったら変わったで後に素敵な景色が待っていると私は信じておりますので。ただ、誰もが思いつかないような(MC交代の)アイディアを決断できるという、(MXの)大川(貴史制作)局長の決断力に改めて素晴らしい方だなと思いました」―。

 静かな口調で制作幹部の名前をあげて言った後、「ただ、私の次が垣花さんと言うのはまだ消化できていないです」と、我に返ったように笑いを誘った。

 一方の垣花が「僕をふかわさんの次にすると言うMXスタッフの決断はすごいなと思いました。僕はやってみて下さいと思うだけです」と決意表明すると、ふかわは「風の便りで聞いたんだけど、垣花さん、『5時夢』が決まって『やった! これで1軍入りだ!』と発したらしいんですよ。こんな失礼なことがありますか?」と暴露。

 これに垣花が「野球に例えて『5時夢コメンテーターの皆さんにホームランを打っていただくためにマウンドに上がります』と言ったら、バラダンのチームが『じゃあ、我々はブルペンだったんだな』と言ったんですよ。『ナイトゲームからデーゲームの違いですよ』って釈明するのに1週間かかったんです」と言い返して、その場は爆笑に包まれた。

 だが、私は自分に言い聞かせるように話したふかわの最初の言葉こそが本音だと受け取った。

 そして、会見終了から3時間後、同じビル内にあるMXスタジオから最後の「5時夢」生放送に臨んだふかわは新天地「バラダン」について、「この間、若干、内容をリニューアルしたいと説明があったんですけど、どっからどう捉えても劣化版の『王様のブランチ』なんですよ」と笑わせると、自身のMC放送1907回を振り返る「私の愛したふかわりょう」と題したVTRが流されると、「皆さん、ありがとうございました。もう帰りたい…」と大粒の涙をぬぐいながら話した。

 象徴的だったのが、コメンテーターの作家・岩下尚史さん(59)の「私たちみたいな、ろくすっぽうまく話せない者の言葉を全部、引き出してくれて。ふかわさんは絶対、私たちの言ったことで知ったかぶったりしないし、無視したりも絶対しない。全部受け止めて、生かしてくれて。私たちがどれだけ儲かったか分からないですよ」という言葉だ。

 出演者に寄り添い、その言葉をていねいに拾い、温かくその個性を生かす―。ネット記者として「5時夢」を視聴することが多かった私がずっと感じてきたふかわの魅力を伝える言葉を岩下さんが代弁してくれた気がした。

 この日出演の元女子プロレスラー・北斗晶(53)も、アシスタントの大橋未歩アナウンサー(42)も涙をぬぐう中、最後のあいさつで、ふかわは言った。

 「共演者の皆さん、スタッフの皆さん、そして、視聴者の皆さんにずっと見守ってもらい、今日まで育ててもらったと思っています。本当に感謝しています。この9年間は私の人生にとっての宝物です。そして、この先もまた新しい宝物を見つけたいと思っています。ですので、4月から始まる新しい夕方の景色を皆さんも楽しんで下さい。こんなに汚い(スタジオの)床ですが、こんなに愛おしい沼はありません。本当に9年間、ありがとうございました」―。

 こんなに出演者全員が号泣していて、でも、終始、幸せな雰囲気があふれた卒業劇を見たのは初めてかも知れないし、私も正直、目頭が熱くなった。

 決して新たにMCを務める垣花が力不足というわけでない。改編会見に出席したMXの編成、制作の総責任者・山崎宇充常務取締役の今回のMC交代に対する「垣花さんがニッポン放送でやられている『垣花正 あなたとハッピー!』という番組の視聴者層と『5時夢』の視聴者層が非常に同じような層ではないかという想定があります。ウチの制作陣がいろいろな意味で考えてのことだと思います。それぞれの番組をリニューアルして、いい番組にするために入れ替えと言う言葉がいいのかどうか分かりませんが、そういうことになったと考えています」という答えも聞いた。

 ただ、「なぜ、こんなに愛され、番組の顔にまでなっているMCを10周年目前で代えてしまうのか」という疑問が最後までぬぐえなかったのは事実だ。

 それでも、この1日でふかわりょうというタレントの持つ魅力は存分に伝わった。あとはその言葉どおり「後に素敵な景色が待っている」ことを信じて前進すればいい。一般人だって、人気タレントだって、自分の行く末、去就は自分では決められない。人生なんて、そんなものだろう。

 番組の最後にカメラに向かって手を振るふかわの涙まじりの笑顔が、そんなことを教えてくれた。(記者コラム・中村 健吾)

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