「ウケない時の挫折感って、すごい」…74歳になったビートたけしが明かした弱さと孤独

スポーツ報知
新番組の制作発表会見でいまだに「ウケないことに恐怖を覚える」という本音を明かしたビートたけし

 昭和、平成、令和の3つの時代を駆け抜けてきた超大物タレントが自身の弱さを赤裸々に披露する一幕があった。

 オンラインで行われたテレビ東京系新番組「23時の密着テレビ レベチな人、見つけた」(30日スタート、火曜・午後11時6分)の制作発表会見。前身の番組からコンビを組んで12年目になるMCのビートたけし(74)と国分太一(46)がパソコン画面の向こうで抱負を語った。

 世の中の「滑舌が衰えた」、「フガフガ言っていて何を言っているのか分からない」などの悪評もなんのその。映画担当記者だった1997年、監督・北野武として「HANA―BI」で日本映画40年ぶりとなるベネチア映画祭の最高賞・レオーネドール(金獅子賞)に輝いて以来、四半世紀にわたって背中を追い続けてきた、たけしは、この日、“舌好調”だった。

 世の中に1%くらいしかいないだろうというレベルの違う「レベチな人」をディレクターが探し出し、たけしと国分にプレゼン。一般人とは次元が違い過ぎる生活をしている人、我々には理解できない考えを持っている人などの「レベチな部分」を大いに驚き合おうという番組内容にちなみ、自分の周りの「レベチな人」について聞かれると、いきなり毒ガス噴射。

 「(出身地の東京・)足立区に行くと、よくレベチな人がいてね。ウチの近所には『元気か? いつも立ってるな、こいつ』とか電柱に話しかけているレベチなおじさんとか。あと、車、拾っちゃった人とかね。駐車してあるんだけど、駐車場で車、拾ったと言い張る人とかね」と爆笑を誘った。

 さらに自分自身の「レベチな部分」を聞かれると、「俺は、とっくに芸能界からいなくなっているはずなのに、すごいなと思いますね、干されなくて。前科があってですよ。死にかけたりなんかして。まだ、芸能界でレギュラー持っているのなんて、すごいですよ。事件起こした時点で普通は(テレビ局に)出入り禁止だよ。板東(英二)さんなんて、カツラのあれ(購入費)で税金落とそうとしただけ(で番組降板)だよ。俺なんて、それに比べたら重犯罪だもん。ありがたいこって」―。

 瀕死の重傷を負った94年のバイク事故や86年のフライデー襲撃事件での逮捕までギャクにして見せた。

 隣に座った国分に「たけしさんは自分が普通だと思っているんですか?」と聞かれても「ごく普通ですよ。普通のおじいさんですよ。後期高齢者で、なんで俺だけワクチン打ってくれないんだって」と訴える場面も。

 番組PRを求められても「まだ、ガタガタ言っているオリンピックの総合演出は私にやらせて下さい。佐々木ってのはダメですから。私がやれば少ない予算であっと驚くような宇宙船が着陸して出てくる。そういうのをやりますから」と容姿蔑視発言で辞任した東京五輪式典統括の佐々木宏氏(66)の名前まで出して猛アピール。

 「野村萬斎もいらないんで―。オリンピック(の式典演出)ってのは大体、映画監督がやるもんで。チャン・イーモウとか私とかね」。ニヤリと笑うと、クロマキー映像用の緑色のタイツを着た自分の姿を指さしながら、「私はメガホン持てば、役者をぶん殴っていればいいんですから。仲代達矢さんを殴ったっていいんですから。それをこんなアマガエルみたい格好をしてやっている、こっちの身にもなって下さい」と「世界のキタノ」としての実績もアピールしつつ、爆笑を誘った。

 そんな、たけしが今まで見せたことがなかった自身の弱さに言及したのは、会見の終盤、国分が「たけしさんはお客さんの前が苦手というか。客前でも緊張しないイメージなのに『客前に立つとすごい緊張する』って言って、客前に立つ前にのルーティンがあって。『自分はできる。絶対、面白い』って言いながら、回っているらしいんですよ。そういう一面があるっていうのは、たけしさんも人間なんだな、緊張するんだなって驚きましたね」と共演12年で垣間見た素顔を明かした時だった。

 その瞬間、スッと真顔になった、たけしは「浅草時代の漫才の時にさ。前の(出番の)ヤツがやっている間、楽屋でグルグル回っているんだよ。前のヤツの漫才への笑い声を聞いて『あいつら、ウケている。負けちゃいられない、たけしは面白い』って言い聞かせてさ」と明かすと、「今だにやっちゃうね。単独ライブで地方回った時とか、楽屋で5分くらい前から何かしゃべりながら回り出すね。だって、客前って怖いもん。ウケなかった時の妙な沈黙って、むちゃくちゃ汗かくもん」とポツリ。

 「1億円もらうより1000円もらってウケる方を選ぶもん、俺。ウケないってことは響くんだよね。何年経っても、まるっきりウケなくて冷や汗かいた舞台を覚えているもん。ウケない時の挫折感って、すごいもん」と無防備に本音を明かして見せた。

 その言葉を聞いた時、私の記憶は24年前のベネチアの地にフラッシュバックしていた。

 日本映画40年ぶりとなる金獅子賞受賞の歴史的快挙の瞬間、本島からボートに乗ってのリド島入りから密着していた私が宿泊ホテルのスイートルームに駆けつけると、明らかに顔を上気させた、たけしは「俺はベネチアを取った男だなんて思ったら、いい映画は撮れなくなる。これからも振り子のようにお笑いとシリアスのバランスを取っていくよ」―。そう淡々と言った。

 その言葉通り、その夜、世界のトップ映画人が終結したメイン会場・サラ・グランデで行われた授賞式で、今度はお笑いタレント・ビートたけしが大暴れを見せた。審査委員のイタリアの巨匠・フランチェスコ・ロージ監督から獅子をかたどった黄金のトロフィーを受け取ったとたん、その箱のフタをパコパコと開閉させるパフォーマンス。

 さらにマイクを向けられると、「(ロージ監督は)今度また一緒に組んで、どこか攻めようと言ってるのかな」と第2次世界大戦時の日独伊3国同盟をギャグにする世界規模の毒ガスジョークを一発。ついには「Let’s try again with Italia and go to some country to war」と、だめ押し気味に英語でも言い放ってみせた。

 現在ならコンプライアンスにも引っかかるだろう、この世界的規模のギャグは明らかにすべった。一瞬、会場はシーンと静寂に包まれ、審査委員長のジェーン・カンピオン監督などは明らかに眉をひそめていた。その時もたけしは頭をかきながら、がに股で引き揚げていった。

 そう、超大物なのに大舞台で緊張しまくり、やらかしてしまう弱さ。あの時、たけしが見せたのは、そんな人間味あふれる一面だったんだと、私は24年が経過したこの日、分かった。

 お笑いとシリアスの間で揺れ動く振り子のような74年の人生。この日の会見の最後にも時の人・渡辺直美(33)をからかうかのような“ウケない”ギャグをかまして去っていくたけしの背中に透けて見えた大物芸能人としての孤独―。

 その時、なぜ、この人がここまで魅力的なのかが心の底から分かった。記者として、なぜ、その背中を追い続けたくなるのかという理由もまた―。(記者コラム・中村 健吾)

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