放送52年でピリオドの「走れ!歌謡曲」に文化放送社長も「大変、残念」…開局70周年目前での最長寿番組終了の裏側

スポーツ報知
文化放送の新番組「ヴァイナル・ミュージック」出演の(左から)703号室こと岡谷柚奈、こぴ、コバソロ

 今月27日、半世紀以上続いた長寿番組が、その幕を閉じる。1968年11月19日にスタートした文化放送の最長寿ラジオ番組「走れ!歌謡曲」(火~土曜・午前3時)が今、最終回に向けてのカウントダウンに入った。

 放送期間52年。「走れ!」の言葉通り、真夜中に孤独に走り続けるトラックドライバーに愛され、これまでに80人を超えるパーソナリティーが番組を担当してきたが、その顔ぶれがすごい。川中美幸(65)、坂本冬美(53)、香西かおり(57)ら大物演歌歌手がずらり。89年に亡くなった美空ひばりさんも本人たっての希望で1日パーソナリティーに挑戦したこともあった。

 しかし、そんな伝統の番組の終了。背景には開始時から50年以上、1社提供を続けてきた日野自動車のスポンサー撤退も大きかったという。同局は来年3月31日に開局70周年を迎える。そのわずか4日前に「走れ!」はリスナーにさよならを告げることになったのだ。

 4月からの開局70周年アニバーサリーイヤー突入にあたり、16日、オンラインで行われた斉藤清人社長(57)の定例会見では「もっと過激に もっと優しく 文化放送」というキャンペーン・コンセプトが発表された。

 70周年の記念すべき年直前での最長寿番組の終了。それは長年、運転席で耳を傾けてきたリスナーには「優しく」ないのではないか―。そんなことを思ったから、パソコン画面の向こうの斉藤社長に聞いた。

 「『走れ!歌謡曲』が52年間の歴史に幕を閉じます。今の思いを聞かせて下さい」―。

 1987年に同局に入社した斉藤社長は「私が入社する前から続いてきた番組でございます。この番組からスターと言われる歌手の方、この番組のパーソナリティーを務めた後、大ヒットを飛ばした歌手の方もいらっしゃいます」と振り返った上で「この番組が終了することは残念でもあり…。これは文化放送個社だけの問題ではなく、音楽を扱うラジオ局にとっては大変、残念な終了であると認識しております」と続けた。

 その上で「だからこそ、この後番組には歌謡曲という言葉は残しました」と後継番組「ヴァイナル・ミュージック~歌謡曲2・0~」に「歌謡曲」という言葉を残したことへの思いを明かし、「戦後の復興を支えた流行歌はどう残っていくのか? 『走れ!』はいったん役割を終えますが、それに続く番組にいい形で52年のエキスを注入していくことによって、文化放送個社の番組というよりは音楽業界、エンターテインメント業界全体の番組にこの新番組が成長していくことがリスナーへの恩返しであり、『走れ!』を支えてくれた出演者、スタッフへの恩返しと思っています」と熱く続けた。

 「恩返しを新しい番組で始めるんだと。『走れ!』が終わるのは残念だけど、終わるということで下を向くのではなく、新しい番組でいろいろな人により新しい発信をしていきたいと、そう捉えています」と決意表明した斉藤社長。その言葉をそのまま伝えた私の速報記事には、リスナーたちからの、こんなコメントが集中した。

 「『走れ!』…。そのまま続けて欲しかった」

 「配送業務中の楽しみだった。寂しい」

 「長距離トラックドライバー向けの番組がまた一つ消えますね」

 「なくなると自分の青春時代が消えるようで…」

 番組への熱い思いをつづった言葉が集まったが、斉藤社長が明かしたとおり、「走れ!」の残した音楽番組の、歌謡曲の“魂”は後継番組に受け継がれていく。

 定例会見のゲストとして登場したのが「走れ!歌謡曲」に代わり、29日からスタートする音楽番組「ヴァイナル・ミュージック~歌謡曲2・0~」でパーソナリティーを務めるシンガーソングライター・703号室こと岡谷柚奈(21)、マルチクリエイター・コバソロ(34)、女性シンガー・こぴ(24)の3人だった。

 同番組はヴァイナルレコード音源を中心にシティーポップや歌謡曲をオンエアする生放送番組。「古き良きものを新しく魅せ、新しいモノを親しみやすく魅せる」、「音楽を通して時代をつなぎ、世界をつなぐ」をコンセプトに深夜に生活するすべてのリスナー始めオンエア後のオーディオコンテンツ配信で音楽を楽しむ音楽好きな人々をターゲットとする。

 会見で岡谷は「初めてのラジオでとても楽しみです。音楽はもちろん、自分と向き合って、今日をどんな1日にしたいか、リスナーと共有できたら」と笑顔。コバソロも「ふだん、ユーチューブで活動していているので、ラジオで外に発信できる機会を与えていただいたのがうれしいです」と話した。

 こぴも「ふだんはユーチューバーとして顔を出して配信していますが、ラジオで耳だけで届ける機会をいただけて、身近な心のより所として、聞いて頑張ろうと思えるような時間にしたいです」と意気込んだ。

 会見の最後には、岡谷が生ギターでの弾き語りで「僕らの未来計画」を歌い上げた。ラジオ世代とはとても言えない若い彼女の「優しさ」にあふれた歌声を聞いた瞬間、私は直接、語りかけてくれるメディア・ラジオの持つ優しさ、そして文化放送のこだわった「歌謡曲」の温かさに包まれていた。そう、音楽の力が確かに、そこにあった。(記者コラム・中村健吾)

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