まるで「真逆」 仙台の焼き鳥店の大将が話した震災とコロナ

スポーツ報知
仙台市の焼き鳥店「五つぼ」

 東日本大震災から10年目の年がコロナ禍。というのは一体、何の巡り合わせなのだろうか。震災から10年を迎える年に仙台にいるせいか、最近はこんなことを考えている。仙台駅東口から歩いてすぐの焼き鳥店「五つぼ」の大将・及川裕樹さん(50)がぽつりと漏らした一言が、とても印象的だった。

 「震災とコロナは真逆だっちゃ」。2002年4月、仙台市の河原町に1号店をオープンした大将。震災当時は仙台駅東口の2号店にいたという。地震の影響で都市ガスが使えなくなり、店もめちゃくちゃに。ただ河原町の店はプロパンガスが使えたため、地震発生から中1日、13日の早朝から露店販売という形で営業を再開したそうだ。朝から夕暮れ近くまで「焼き鳥弁当」を作って売った。「雪が降っていたけれど、毎日、長蛇の列ができていた」と及川さんは明かす。食料を調達するのに、だれもが苦労していたのだろう。

 その一方で、当時は人のたくましさを感じていた、と大将は言う。震災前から取引する宮城の酒蔵さんとはよく、こんな話をするそうだ。「街は真っ暗で道路はぐちゃぐちゃ、自給自足のアナログ生活だったけど、それでも当時は、ここからなんとかすっぞと立ち直ろうとする人の強さがあった。日本全国、世界中の人が助けようと動いてくれたのも大きかったかもしれない。その点、コロナは逆だよね。街はきれいで、家に明かりはついていて、食べ物もある。でもあの頃より閉塞(へいそく)感がある。コロナ禍の今の方が、あの頃より閉塞感がある」。震災では、大将の自宅も半壊し、コンビニの駐車場で一週間ほど車中生活をしたという。そんな状況下だったが、仙台はこんなに星がきれいだったんだ、なんて話を家族でよくしたそうだ。

 仙台では今年2月8日、飲食店の時短営業が解除された。飲食店は今、通常営業しているところが多いが、コロナ以前のような活気はない。店を開く側も、足を運ぶ客も、どこか不安やうしろめたさを抱えているせいだろう。ステイホーム、ソーシャルディスタンス、いつまで続くのか。大将の話を聞いて一つ気づいたのは、人の心が閉塞感で病んでしまったときに効くワクチンは、まだ開発されていないということだ。(東北支局・小山内 彩希)

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