規格外のサイズを持つゴールキーパーを目の当たりにした。法政大GK中野小次郎(20歳、3年)。その身長は、なんと201センチもある。

6月12日、総理大臣杯の出場権をかけたアミノバイタルカップ関東大学サッカートーナメントの準々決勝。筑波大との一戦で、法大のゴールを守ったのが中野だった。

身長201センチの法大GK中野小次郎
身長201センチの法大GK中野小次郎

■チーム救うビッグセーブ

バスケットボール選手のような長い手足。コーナーキックの際、ゴール前に密集する180センチ台の“大柄”な選手と並んでも、その大きさは格別だ。ゴール前へ浮き球のクロスボールが入れば、誰にも邪魔されることなくボールに触ることができる。

高さだけではない。オウンゴールで同点とされた直後の後半14分、筑波大FW森海渡(1年)が中央をドリブルで突破し、ゴールへと迫った。1対1の場面、右足で放たれた地をはう鋭いシュート。瞬時に右へ跳び、右手でゴールの外へとはじき出した。まさに言葉の通り、ビッグセーブ。大事な場面で勝ち越し点を許さなかった。

利き足は左というレフティーGK。現代サッカーで求められる「11番目のフィールドプレーヤー」としてビルドアップに加わり、正確にボールを配給していく。パサーとしての技量も申し分ないようだ。

ただ後半の終盤に一度だけ、中央のMFへ送ったパスがインターセプトされ、あわやカウンターを食らいそうな場面があった。その時は相手選手がボールコントロールにミスし、浮いたボールが手にあたりハンドの反則でプレーは途切れた。

試合は延長戦まで戦い抜き2-2の同点。決着はPK戦へと持ち込まれた。

味方選手が1人失敗し、決められたら試合終了となる5人目。筑波大のキッカーが正確にゴール右隅へと蹴ったシュートを、長い手をスッと伸ばして何事もなかったようにセーブした。チームの危機を救う、またしてもビッグセーブだった。

結局PK戦は13人目まで続き、中野はその後はシュートを止めることはできなかった。というより、冷静かつ正確に左右の隅を射抜いていく筑波大のキッカーたちをほめるべきだろう。そして法大の13人目の選手のキックがゴール枠を外れ、勝負は決した。

国内では例をみない身長2メートルを超える大型キーパーである。JリーグではFC東京の波多野豪が198センチ、ベガルタ仙台GKシュミット・ダニエルが197センチが最も目立つところだが、過去にもGKで2メートル台はいない(※フィールド選手ではガイナーレ鳥取に在籍したFW畑中槙人=現在はアルビレックス新潟シンガポール=が205センチ)。

現在、世界一流のGKは大型化の傾向にある。ドイツ代表ノイアー(バイエルン)が193センチ、ベルギー代表クルトワ(チェルシー)は199センチ、スペイン代表デヘア(マンチェスターU)は192センチ、イタリア代表20歳の新鋭ドンナルンマ(ACミラン)は196センチ。さまざまな要素が求められるキーパーという役柄ゆえ、身長だけで断じることは早計だが、それでも「サイズ」は大きな武器にほかならない。

試合後、敵将、筑波大・小井土正亮監督が中野のプレーを絶賛した。

「フル代表に入ってほしいような素材ですよね。1年前はまだ体が動いていない感じでしたけど動くようになった。PKもあのコースを触りましたからね、あの止めたやつなんか。素晴らしいキーパーですよ、成長した。彼なんか(来年の)オリンピックにも十分いけそうな」

法大の長山一也監督も中野の話題になると「ここ3試合くらい(1番手で)使っています。将来は日本代表にまで行ってもらいたい素材」とニヤリ。未完の大器は覚醒しつつあるようだ。

そこで敗戦に唇をかむ中野に近寄り、声をかけた。

PK戦でシュートに食らいつく法大GK中野小次郎
PK戦でシュートに食らいつく法大GK中野小次郎

■上田の日本代表入りが刺激

-惜しいゲームでしたが?

「前回、関東リーグでやって(6月1日、4-0で筑波大に勝利)いい流れでできていたので、それを継続してやっていこうと。自分も含めて前半はボールを動かしながら、相手の嫌なところに侵入していって、前半はそこでサイドからクロスで1点取れて。後半はセットプレーのカウンターでやられて、相手が勢いに乗って。(スコアを)2-1にできたんですけど、後ろが踏ん張りきれなくて、すぐに追いつかれました」

-PK戦でもいいところで止めて流れを引き戻した。かなりプレーは目立ったように見えましたが?

「コーチから自分がビルドアップに参加していけと言われていたので、そこは自分の持ち味、良さが出せたかなと思います。PK戦のところは、そこでヒーローになれるか、なれないかというところで、なれなかったです」

-中央を突破されて1対1の場面で打たれて、それを右へ跳んでセーブしたのはすごいプレーでしたが?

「あーいうシュートは来ると思っていたので、あそこは自分も準備したところが出せたと思います」

中野は徳島ヴォルティスのジュニアユース、ユース育ち(徳島中-徳島市立高卒)。小学2年でサッカーをはじめ、体が大きかったことから5年頃からGKをやるようになったという。高校入学時には既に190センチほどあった。そこから現在まで伸び続け、大学2年生で2メートルの大台に乗った。

法大1年でU-19(19歳以下)の日本代表にも選出され、スペイン遠征を経験した。ただチームでは今季序盤は4年生がレギュラーで、2番手の立ち位置だった。1カ月ほど前から出番が増え、立場は逆転しつつある。

-大学に入って何が成長しました?

「1本のシュートを止めるか、止められないか、やっぱ簡単な試合は関東リーグ一つもないので、厳しい試合で戦えるメンタルであったり、試合の流れを読む頭だったり。技術以外のメンタルの部分は学ことが多いです」

-今後の課題は?

「もっとシュート止めてチームを助けられるキーパーになりたいのと、今日は比較的にキックは安定していたんですけど、ミスキックで流れを悪くしたりするので、そこはもっと突き詰めていこうかなと思います」

-確かに1本、インターセプトされる場面がありました

「1本ありました。そういうところです。流れを止めない」

さらにこうも続けた。

「自分はメンタルが強いか、弱いかと言われると弱い方なので、監督からはもっと自信を持ってやっていけ、と常に言われています。後はビッグセーブでチームを勝たせられるキーパーになれと。今日はそれが果たせなかったと思っています」

くしくも中野と同じ法大の3年に在籍しているのが、コパ・アメリカ(南米選手権)に選出されている日本代表FW上田綺世。そのA代表にまで登りつめた上田の強烈なシュートを受け、シュートストップの腕を磨いた。

「(上田は)いつも一緒に練習しているので刺激になります。身近すぎて(日本代表入りに)実感がなかったです」

頑張れば自分も日本代表に手が届くという思いが芽生えた。来年の東京オリンピック(五輪)について「そこは目指してやっていこうかなと思います」。

法大GK中野は仲間と並ぶとその大きさは一目瞭然
法大GK中野は仲間と並ぶとその大きさは一目瞭然

■GKプロジェクト活動の実り

かつて日本サッカーにとって、GKはウイークポイントだった。ゴールを奪う側に比べ、ゴールを守る側は不人気だった。また、足かせとなったのは環境面だ。育成年代では硬い土のグラウンドが当たり前。目に見えて痛みが伴うポジションゆえに、飛び込むことをためらってしまう。クッション性のある芝生のピッチに慣れた欧州とは明らかに違い、技術習得への壁があった。

そして何より専門的なコーチが少なかった。そんな事情から、日本サッカー協会は今から20年前の1999年(平11)から「GKプロジェクト」と称し、キーパーの強化と育成を目的としたナショナルキャンプを開催。地域レベルでも積極的にGKに特化した育成活動を行ってきた。

そんな地道な指導が実り、近年の日本サッカー界には身体性に優れ、高い技術と戦術を持ち合わせるキーパーが目立つようになった。トゥーロン国際大会でU-22日本代表の1番を背負ったのオビ・パウエル・オビンナ(191センチ)は流通経済大の4年生。来年の東京五輪を目指す有力な選手である。

例えば野球のように「1発」で3点、4点が入ることがない。あくまで1点を争うサッカーという競技だからこそ、その1本を防ぐかどうかが勝負の行方を左右する。

ビッグセーブでチームを勝たせられるキーパーになる-。

そんな強い思いが、ゴールの門番たちを未来へと突き動かしている。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)