京口戦中止のタノンサック、故郷タイで充電中 あきらめない世界王座への夢

スポーツ報知
ボクシング。京口との世界戦が中止となり帰国したタノンサック(右)は故郷タイのシーサケットに帰省し、家族と過ごす(タノンサック陣営提供)

 故郷タイで家族写真におさまる20歳のプロボクサーの笑顔を見て、少しホッとした気持ちになった。青年の名はタノンサック・シムシー、現在WBA世界ライトフライ級11位の選手だ。昨年11月に大阪で同級スーパー王者・京口紘人(27)=ワタナベ=に挑戦するため来日したが、前日計量をパスした後に京口とそのセコンドの新型コロナ感染が判明。あとはゴングを待つばかりだった試合は突然中止となり、タノンサックは泣き崩れた。年内に試合を仕切り直す計画もあったが、それもかなわず、挑戦者は12月24日に帰国。この一戦にかけて、タイでの厳しい練習や来日直後の2週間隔離などを乗り越えてきた若者を気の毒に思い、私が励ましたからか、日本語堪能な陣営マネジャーのプーム・コーソンセット氏がタイ帰国後の2週間隔離が明けた後「彼は元気でやっていますよ」と写真を送ってきてくれた。

 タイ国同級王者でもあるタノンサックは、ムエタイから転向し、現在14戦全勝(12KO)無敗。大阪の名門・グリーンツダジムとマネジメント契約を結ぶ。まだ粗さはあるが、日本のリングでも手数の多い好戦的なファイトで勝利をおさめている。同ジムの本石昌也会長も「最近の日本人選手にはないハングリーさを持っている」と期待。首都バンコクから車で約9時間の地元シーサケットでは両親と自身を含む5人きょうだいが、月およそ1万円で暮らしており「家族のために必ず世界王者になる」と意気込む。目に見えないウイルスという敵に世界初挑戦のチャンスを奪われても自暴自棄にならず、帰国までの間、試合を控えた同ジム選手の実戦練習の相手を務めるなど、ひたむきにトレーニングに励んだ。勤勉で努力し続ける才能もある。

 グリーンツダジムはこれまで井岡弘樹、山口圭司、高山勝成と3人の世界王者を輩出。高山が大阪でイサック・ブストス(メキシコ)からWBC世界ミニマム級王座を初奪取した2005年4月を最後に、世界王者は出ていない。同ジム4人目のチャンプ候補として、フェザー級の前田稔輝(じんき)、スーパーバンタム級の下町俊樹(いずれも24)らに今から期待しているが、この前途有望な20歳のタイ王者・タノンサックの名も付け加えておこう。(大阪ボクシング担当・田村 龍一)

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