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「日本一のベンチをつくろうぜ」無観客の選手権を制した山梨学院の舞台裏

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大会を制覇した山梨学院高(写真協力『高校サッカー年鑑』)

 新型コロナウイルスの影響で無観客開催だった選手権は山梨学院高のにぎやかなベンチワークが際立った。楽しそうに盛り上げ、マスク越しにピッチの選手に声を掛け、アップ中もみんな笑顔。大会制覇の要因にチームの一体感が挙げられるが、そこには雰囲気をつくりあげた控え組の貢献があった。

 分厚い選手層を誇った山梨学院。随一の技術を持つFW笹沼航紀(3年)ら実力者たちもベンチスタートに甘んじる形となったが、腐ることなく、共通意識をもっていた。「日本一のベンチをつくろうぜ」――。「ウチのベンチはうるさいんですよ、日本一のベンチなので」と笹沼は胸を張った。

「普通ベンチとスタメンって温度差があるけど、自分たちは仲が良くて。日本で一番声を出して、選手を鼓舞して、『日本一のベンチをつくろうぜ』ってみんなで話していました。ベンチにいると緊張している選手の顔がわかるので、そういう選手を和ませるために『表情硬いぞー』とか、みんなで声を掛けて笑顔にすることが多かった、今大会は特に。逆に無観客で良かったのかも…すごく声が通ったので」(笹沼)

 無観客の静かな選手権を盛り上げ、控え組がチームの雰囲気をつくった。周囲からは「山学のベンチ、なんで笑ってるの?」と聞かれ、にぎやかな“声”は副審から注意されたこともあったという。

 大会中は故障者も出たが、選手層を生かして、総合力で勝ち上がった。初戦の米子北戦でDF板倉健太(3年)が負傷交代するアクシデントに見舞われたものの、緊急投入されたDF加藤豪太(3年)が値千金の決勝ゴール。3回戦・藤枝明誠戦では先発に抜擢されたMF浦田拓実(3年)がゴール…。出場した選手が活躍する、最高の好循環が生まれていた。

「途中交代で出る選手が結果を残すことが結構あるんです、予選のときから」。そう指摘した笹沼は「自分たちは一体感で戦っていて、良い声掛けをして、ベンチが雰囲気をつくって、自然と笑顔になって。自分が出るときはそうやって送り出してもらってピッチに立っていたので、楽しく試合に入れました。チームワークで優勝したと思っています」と力を込めた。

満点回答のゴールを挙げた浦田も「盛り上げはすごいです。みんな、めちゃくちゃ声出してましたね(笑)」と振り返る。「相手にとって一番嫌なベンチをつくろうって。プリンスリーグから、ベンチは楽しむことをみんな意識していました。一番良いベンチ作りをしたのかなと思います」(浦田)



「日本一のベンチ作り」をリードしたのが、GK磯部圭佑(3年)だった。控えGKという立場だが、試合に出られなくても率先して声を張り、GK熊倉匠主将らチームをサポート。磯部は藤本豊コーチ、OBの古屋俊樹氏からベンチの“声”の大切さを教わり、行動に移した。

「クマ(熊倉)とか、試合に出ている人たちをベンチがどれだけ助けられるかなと考えたときに、声かなと思った。出られない悔しさは一人ひとりあると思うけど、勝って欲しいという気持ちで『日本一のベンチをつくろう』という話をしました」(磯部)

「自分たちの代は仲が良くて、良いライバルであり、良い仲間だった。出てる出てない関係なく、チームで声を掛けようっていう気持ちでした。最後の選手権というのもありますし、みんなと一緒にいられる選手権が楽しかった。みんなで悔いのないように楽しく出来ました。優勝したあとはリモートで応援してくれた人たちも泣いて喜んでくれて、良い代だったんだなと、幸せだったんだなと改めて思いました」(磯部)

 一方、初戦から全6試合、520分ピッチに立ち続けた副主将のDF鈴木剛(3年)は元気なベンチが支えになったことを明かした。

「試合中は集中すると声は聞こえないんですが、セットプレーのとき、プレーが途切れたときにアイツらがめちゃくちゃ声を出してくれていた。出てないのにこんなに声を出してサポートしてくれるのか、と。そういうチームの一体感が今回、勝ち上がれた要因だったと思う。どういう形でもいいからチームに貢献してやるっていう気持ちが伝わってきて、自分は嬉しかったです」(鈴木)

 そうした3年生の姿勢に対して、後輩のFW茂木秀人イファイン(2年)は「自分もベンチにいて、3年生からは一致団結して戦う姿勢をすごく学んだ」と強調した。「出られなくてもチームを勝たせるために動いてくれて、そういう3年生の姿勢というのは自分たちの代になったときに見習わないといけないと思っています」(茂木)

 青森山田との110分間の激闘を終えたあと、さすがに緊張感が漂いそうな最後のPK戦前にも、山梨学院は笑顔だった。円陣はひときわ明るく、「楽しんでいくぞ」「オーイ!」「シャー!」と気合の雄叫びがあがった。無観客の選手権を盛り上げた「日本一のベンチ」がチームの一体感を強め、日本一を手繰り寄せた。




(取材・文 佐藤亜希子)

(※山梨学院高の協力により、リモート取材をさせて頂いています)
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